朝日新聞【イチ押し】旅する文学 茨城編 読書面 発信者:吉村 千彰(編集局)

月に1度、全国のご当地文学を紹介する「旅する文学」。今月は「茨城編」です。筆者は切れのある文体でファンも多い文芸評論家の斎藤美奈子さん。取り上げたのは、まず、長塚節の「土」。農民のどん底生活のリアルな描写に、あの夏目漱石も舌を巻いたそうです。新田次郎「ある町の高い煙突」は実話をもとにした歴史小説。モデルになった煙突は1914年に完成し、今も日立市で現役稼働中です。ほかにも佐伯一麦「渡良瀬」、嶽本野ばら「下妻物語」、恩田陸「夜のピクニック」と細部まで光る小説が続きます。そして、最後に紹介される荻原浩「僕たちの戦争」は、異色の反戦小説。タイムスリップして入れ替わった若者たちが、それぞれ別の時代で目覚めるのですが、ともに筑波山を目にして、自分が茨城にいることを知るのです。