「最悪の結果は免れたが深刻な事態だ」。和歌山県に選挙遊説に来ていた岸田文雄首相が狙われた。安倍晋三元首相の銃撃事件から9カ月あまり。警察当局は警備態勢の強化に努めてきたが、今回の事件の発生を防ぐことはできなかった。どうすれば要人を守れるのか。改めて浮き彫りになったのは、選挙における警備の難しさだ。
木村隆二容疑者(24)が投げたとされる爆発物は岸田首相のすぐ近くまで転がった。現場に居合わせた首相周辺は「すぐに爆発していれば首相の命の危険もあった」と振り返る。
「首相の近くまで投げられたことが問題だ」。警察幹部はそう指摘した。現場で警戒する警察官は周囲に目を光らせ、不審な動きをする人物がいればその場で声をかける。そうした対応ができなかったことを多くの幹部は重く受け止める。
しかし、その一方で、選挙での警備の難しさを訴える警察幹部は少なくない。通常の要人警護では、一般の人が立ち入ることができないクリアゾーンを広くもうけ、要人との距離を保つ。ゾーンが広ければ、安全はより一層担保される。
ただ、そうした対応は選挙では取りにくいという。聴衆の近くで演説し、身近に感じてもらうことが票につながると考える政治家は多い。今回の遊説でもクリアゾーンは設定されたが、聴衆のなかにいた木村容疑者と岸田首相の距離はそれほど離れておらず、物を投げれば十分に届く範囲だった。(12版から、1、3面、社会面)