「次の抗がん剤が効かなければ、余命は半年ぐらいでしょう」
2018年6月、静岡県焼津市に住む地方公務員、青島央和さん(50)は、地元の病院で主治医から告げられた。隣にいた妻の服の裾を思わず握りしめ、涙が出た。
ステージ3(進行した状態)の肺がんと診断され、手術を受けて約2年。複数の抗がん剤を使ったが、いったん良くなっても、再発や転移が見られた。
「助けてほしい」。すがるような思いで、肺がん患者の会「ワンステップ」(横浜市)に駆け込んだ。
オンラインで集いに参加して、驚いた。
「EGFRの変異が見つかって」
「私はALKの変異」
遺伝子の名前が飛び交っていた。
肺がんでは近年、特定の遺伝子変異が発症や進行に関わっていることが分かってきた。検査で変異が見つかれば、その遺伝子を標的にした薬を使って効果が期待できる。患者会では、そうした勉強会を開いていた。
青島さんは思い出した。主な遺伝子二つは検査で調べたが、変異は見つからなかった。主治医から「遺伝子に基づく治療は受けられない」と言われていた。
そう口にすると、参加していた医師に教わった。「遺伝子変異は他にもありますよ」
青島さんは「自分の病気や治療をきちんと理解していなかった」と、目を開かされた。
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人体の設計図である遺伝子を調べて、がん治療に生かす医療が普及し始めた。患者の体験を通じ、期待と課題を考える連載がスタートしました。(12版から1,4面)