【外国人に選ばれる国か 地方に配慮か 「育成就労」玉虫色の決着】
技能実習に代わる新制度「育成就労」(仮称)の方向性が24日、政府有識者会議によって示されました。1年に及んだ有識者会議の議論で最大の焦点となったのは、3年間は原則として職場を変えられないとする技能実習の「転籍」制限の緩和でした。
技能移転を通じた国際貢献を旗印に30年続いてきた技能実習は「効率的に技能を身につけるため」として職場移転を制限しています。このことで人権侵害から逃れられず、実習生が失踪しているとの見方があり、2022年だけでも実習生9006人が職場から姿を消しています。
国際的な人材獲得競争が激化する中、日本が選ばれる国になるには、技能実習に代わる新制度が国際的に理解される必要がある――。有識者会議は海外からの視線を意識し、転籍制限を技能実習の「欠陥」の象徴と位置づけて新制度のあり方を模索してきました。
10月のたたき台では、初歩レベルの日本語能力と、基礎的な技能の習得を条件に「1年超」で転籍を可能とする案を示しました。日本の労働法制に準じて労働者としての権利を保護する内容で、有識者会議の多数意見でした。しかし、たたき台には地方から強い批判が寄せられました。「外国人労働者を受け入れても賃金が高い都市部へ人材が流出する」との懸念は地方では根強くあり、最終報告書の取りまとめ直前の会合では、現行の転籍制限3年と、たたき台の1年の間を取った「2年」の修正案を議論。すると、今度は一部の有識者が「新制度への国際的な信頼性、評価にも影響が出る。これでは現行の技能実習と変わらない」と反発し、最終盤まで賛否が対立しました。
結局、24日の最終報告は、新制度の名称を「育成就労」とした上で、転籍制限は1年に先祖返りさせました。ただし、報告書後半の「その他」の章に、「当分の間は分野によって1年を超える転籍制限を認める経過措置を検討する」とも書き込み、立法過程で例外措置を設けることを容認した形となりました。有識者会議は、人権重視にこだわりつつ、地方への配慮から自民党が反発。玉虫色の決着となりました。人手不足にあえぐ経済界の思惑もあり、これからの制度設計は容易ではありません。(12版から1,3,社会面)