毎日新聞・4月17日付朝刊「今日のイチオシ!」 統括社会部長 佐藤敬一

【石綿救済 周知せず縮小/国、除斥起算点早める】

 「工場型」のアスベスト(石綿)被害を巡り、国が2019年に被害者側と和解する条件を見直し、賠償請求権が消滅する除斥期間(20年)の起算点を早める基準変更をしていたことが国への取材で判明しました。

 救済範囲が狭まることになりますが、国は被害者側には周知していませんでした。被害者側は「突然かつ秘密裏の変更だ」と批判しています。

 工場型の石綿被害では、最高裁が14年、「泉南石綿訴訟」の判決で、国の規制権限不行使を違法と認定。国は以後、責任期間(1958~71年)に石綿工場で働いた▽健康被害を受けた▽賠償請求権がある――との条件を被害者が満たせば、和解手続きで賠償金を支払ってきました。

 その際、20年で請求権が消滅する除斥期間の起算点は「都道府県の労働局が石綿による健康被害を認める決定(管理区分決定)を出した時」との基準に従って対応してきました。

 しかし、厚生労働省によると、19年になって、起算点を管理区分決定より前の「石綿被害の発症が認められる時」に早めました。起算点がさかのぼると請求権も早く消滅することになりますが、被害者側に基準変更を周知していなかったといいます。(社会面)